税理士事務所にお越しになる方のご相談で多いのが法人設立です。
起業される時に個人事業がいいのか?法人事業がいいのか?個人事業から法人成りした方がいいのか?
税金面ではどうなるのか?手続きはどのように行うのかなど。
そんなお悩みを少しでも解消するために、法人の設立登記手続きや税金面などを中心にまとめてみました。
- 1 株式会社or合同会社
- 2 法人登記の必要事項
- 3 会社印の作成
- 4 出資金の払い込み
- 5 公証人役場での定款認証手続き
- 6 登記申請手続き
- 7 法人成りのメリット
- 8 法人成りのデメリット
- 9 最後に
株式会社or合同会社
法人の設立登記手続きは、大きくは2つあり、一つ目は公証人役場で定款認証手続き(合同会社は不要)、二つ目は登記申請手続きです。
設立登記手続きの詳細を説明する前に、法人の形態で一般的である、株式会社と合同会社の比較を以下のようにまとめてみました。
株式会社 | 合同会社 | |
資本金 | 1円以上 | 1円以上 |
出資者 | 1名以上 | 1名以上 |
役員 | 取締役1名以上(1名の役員で設立することが可能) | 社員1名以上(1名の役員で設立することが可能) |
役員の任期 ★ | 取締役・・・2~10年 監査役・・・4~10年(監査役を置いた場合) |
定めなし |
最高意志決定機関 | 株主総会 | 総社員の同意 |
決算公告義務 ★ | あり | なし |
代表機関 ★ | 代表取締役又は取締役 (代表者は代表取締役として登記されます) |
出資者 (代表者は代表社員として登記されます) |
定款認証 ★ | 公証人役場で定款認証必要・・・定款認証料50,000円 | 公証人役場で定款認証不要 |
登録免許税 ★ | 登記時に法務局で必要な登録免許税・最低150,000円 (資本金の1000分の7) |
登記時に法務局で必要な登録免許税・最低60,000円 (資本金の1000分の7) |
信用度 ★ | 株式会社が法人の中で一般的に多く信用度が高い | 会社としての認知度が少し低い |
★印の付いた項目は比較した場合の大きな違いです。
株式会社には役員の任期があり、任期満了すると役員改選登記を行わなければなりません。
役員改選登記は司法書士報酬(一般的には1~2万円)+登録免許税1万円が都度必要でランニングコストがかかります。役員改選登記を忘れたり、行わなかった場合には「過料」が掛かる場合がありますのでご注意ください。
個人的な見解は、設立時やランニングコストの負担は大きくなりますが、得意先が大手企業などにより対外的信用を重視される場合は「株式会社」を、不動産管理会社や節税を重視していて、設立時やランニングコストを抑えたい場合には「合同会社」をおすすめします。
また、合同会社から株式会社への変更は可能ですが、新規で株式会社を設立する程度の費用が掛かりますのでご注意ください。
株式会社と合同会社の法人税等の取扱いは同じです。
法人登記の必要事項
法人設立登記をする前に、法人の定款を作成していきます。
定款に記載する事項として「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」がございます。
この絶対的記載事項を中心に一般的のどのような事項が必要かをまとめてみました。
*定款とは、法人の組織・活動について定めた根本規則。
絶対的記載事項
- 商号(会社名・株式会社、合同会社を前か後につけます)
- 事業目的(事業の内容)
- 本店所在地
- 設立に際して出資される財産の価額または最低価額
- 発起人の氏名及び住所
相対的記載事項
- 株式の譲渡制限がある場合はその内容
- 取締役の任期延長
- 現物出資(土地・建物・車など)がある場合には現物出資する人の氏名・財産名・価格・口数
- 設立時の取締役・監査役・会計参与
- 資本金
- 株式の内容
- 株券の発行について など
任意的記載事項
- 事業年度(決算日)
- 役員報酬の決定方法
- 公告の方法
- 取締役・監査役の資格 など
定款のサンプル
一般的な定款のサンプルは以下のとおりです。
ダウンロードができますので、自己責任にて加工してお使いください。
会社印の作成
個人のご印鑑のように、法人を設立した場合も会社印を作成されます。
会社印には、一般的に「実印」「銀行印」「角印」の三種類をご用意されます。
会社印の使用例
- 実印…公的書類や契約書など(法務局へ印鑑登録します)
- 銀行印…銀行口座開設、振込など
- 角印…請求書や領収書など
材質・書体などは以下のとおりです。
価格は改定されることがあります。
会社印の材質で一番のおすすめは「柘」です。
お手入れはこまめにふき取りが必要ですが、コスト的にもリーズナブルで末永く使用できる素材です。
印鑑の材質はお好みで選ばれて問題ないと思います。
印鑑の書体は、印影画像下部の選択割合をご参考にしてください。
出資金の払い込み
定款の作成日以後に出資金を払い込む必要があります。
払い込みの証明は、通常は出資される代表者の個人名義の口座へ出資金を振込んで頂いたものを証明に使います。
登記申請時に払込証明書に通帳写しを添付します。
注)法人の預金口座は、法人設立登記が完了後にしか作ることはできません。
また、出資金の払い込みに個人口座を新たに作成されなくても、既存の個人口座をご使用して頂けます。
通帳のコピーを取って頂くのは下記のページです。
- ①通帳のオモテ面
- ②通帳を開いた1・2ページ目
- ③出資金の払い込みが確認できるページ
公証人役場での定款認証手続き
定款の作成ができましたら、公証人役場で定款認証の手続き(株式会社の場合)を行います。
定款の記載事項が問題ないか確認した上で、定款認証の日を公証人のスケジュールを確認して予約を行って公証人役場へ持って行く。
公証人役場へ持って行くもの
- ①定款3通
- ②発起人(出資者)全員の印鑑証明書1通づつ
- ③収入印紙:4万円
- ④公証人定款認証手数料:5万円
- ⑤定款謄本写し交付手数料:約2千円程度
- ⑥委任状(代理人が定款認証を行う場合)
例)京都府下の公証人役場の一覧です。
画像をクリックまたはタップすると案内図などの詳細がご確認頂けます。
定款・登記申請のおすすめ方法
ご自身で紙ベースの申請をされる場合は、公証人役場で4万円の収入印紙が掛かりますますが、司法書士さんへご依頼した場合や無料で使えるクラウドツール(電子認証手数料は5千円程度別途掛かります)を利用すれば公証人役場で掛かる4万円の収入印紙代が掛かりませんので節約できます。
司法書士へご依頼
必要最低限の記載事項のみ決定して頂ければ、司法書士さんが定款や登記のアドバイスから定款・登記申請・法人実印登録申請までスピーディにサポートして頂けます。
おすすめ司法書士事務所
司法書士法人トリニティグループ…株式会社、合同会社新規設立 38,500円(税込)*京都府、滋賀県の場合
無料で使えるクラウドツールを利用
コストを抑えたいという方は、クラウドツールを使って必要な記載事項を入力するだけで、電子定款認証(電子認証手数料は5千円程度別途掛かります)や登記申請書類が簡単に作成することができます。
おすすめのクラウドツールは以下のとおりです。
法人設立後、会計や給与計算、請求書などお使い頂くとお得なキャンペーンがございます。
今まで会計ソフトのご利用されていたり、簿記の知識がある方は、金融機関やクレジットカードなど連携もできるマネーフォワードクラウド会計がおすすめです。
簿記の知識がなくはじめての方は、簡単に連携やレシート撮影して会計処理がほとんど自動で行えるクラウド会計ソフトfreeeがおすすめです。
登記申請手続き
定款認証が完了しましたら、次は登記申請手続きです。
法人設立日は法務局へ登記申請手続きを行った日となりますのでご注意ください。
一般的に設立日を「大安」の日を選ばれることが多いです。
この日が土、日、祝日にあたる場合は、法務局も休日となりますので、設立日にはできません。
一般的な設立登記申請に必要な書類は以下のとおりです。(株式会社:取締役会を設置しない株式会社の発起設立)
- 株式会社設立登記申請書
- 収入印紙貼付台紙
- 定款(公証人役場で定款認証後のもの)
- 設立時発行株式に関する発起人の同意書
- 設立時取締役選任及び本店所在場所決議書
- 設立時代表取締役選定決議書
- 払込証明書(通帳写しを含む)など
法人設立登記申請書の見本・様式
法務局の管轄・所在地一覧
法務局の管轄・所在地一覧の一例です。
引用元:法務局 管轄のご案内
法人成りのメリット
税率の格差
所得税は所得額が上がることにより、超過累進課税となるため税率が高くなる。
個人事業:所得税・・・最大45%、住民税・・・10%、事業税・・・最大5%
法人:実効税率・・・約30%程度(法人税、地方法人税、法人事業税・都道府県民税、法人市区町村民税)
*個々の控除などの状況にもよりますが、一般的には、所得金額が700万円~800万円以上になれば税金面等のメリットが出てくると言われています。法人成りの際、節税効果を気にされる場合には、法人成りシミュレーションをしっかり行ってみることをおすすめします。
消費税が最大2年間免税
課税売上が1,000万円超の場合は消費税が最大2年間免税。
*資本金1,000万円以上の法人は消費税の免除が適用ありません。
代表者の所得が事業所得から給与所得への転換による個人の税負担が軽減
個人事業の事業所得を法人成りすることにより、事業所得部分を役員報酬(給与所得)とすることができるので、給与所得控除をとることができる。
*詳細は次回以降の記事に掲載する予定です。
対外的な信用力が向上
得意先、取引先、金融機関の融資時など信用力が向上します。
経営者又はその家族へ退職金支払いが可能
個人事業の場合は、事業主への退職金は計上できません。
社会保険加入により人材確保しやすい
健康保険・厚生年金加入などが求人募集要項に記載できるので有利になる。
法人成りのデメリット
赤字であっても法人住民税(均等割額)が掛かる
法人住民税には均等割額というものがあり、例えば、宇治の場合には、京都府法人府民税の均等割額 最低2万円、宇治市法人市民税の均等割額 最低6万円の合計8万円が掛かる。
*市区町村により税率や均等割額は異なる。
健康保険・厚生年金の強制加入で負担増になる場合がある
法人での役員報酬額にもよりますが、個人事業で一定の場合には、任意加入となりますので、国民健康保険・国民年金の方が保険料支払い額が低くなることが多いです。
会社設立や役員改選の登記費用の負担
株式会社を設立する場合には、実費だけでも約20万(合同会社6万円)掛かります。また、株式会社の場合には、役員の任期満了毎に役員改選登記が必要になり、実費だけでも約1万円掛かります。
税務調査が多くなる
個人事業者より法人の方が少ないため、状況にもよりますが、個人事業より法人の方が税務調査の頻度が高くなる。帳簿をしっかり記帳されて、適正な申告をされている場合は、税務調査により時間はとられますが、あまり気にしなくても問題ないです。
法人は税務申告が複雑になる
法人は申告書に別表というものがあり、複数枚記載しなければならず、決算報告書や勘定科目内訳明細書、事業概況説明書など書類は多岐にわたる。
そのため、法人では税理士事務所へ依頼されることが多く、税理士報酬のコスト負担が出てきます。
最後に
今回は法人設立登記や税金のことを中心にまとめてみました。
法人の種類としては、信頼度重視の方は「株式会社」、コスト重視の方は「合同会社」をおすすめです。
定款を紙ベースで認証してもらうと4万円の収入印紙が必要。電子認証の場合は不要。
定款・登記申請は、本業が忙しく手間暇を掛けたくない、確実に登記を行いたい場合には、少し費用負担は出てきますが、司法書士さんへご依頼することをおすすめです。
コストを抑えて自分で行ってみたい方は、クラウドツールを使って書類を作成することをおすすめします。
法人設立後の手続きは、弊所の記事「税理士が教える法人設立後の主な手続き」をご覧ください。
法人成りシミュレーション(個人事業と法人事業の税金の比較)などの詳細は、次回以降の記事で予定しています。
京都・宇治市のケイ・アイ&パートナーズ税理士法人(旧:黒瀬税理士事務所)では、創業・起業・法人設立など予約制になりますが、初回は無料相談を行っています。お気軽にご相談ください。
法人設立関連は、下記リンクの記事もご参考にしてください。
このたびは、長文をご覧になって頂き、本当にありがとうございました。